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福岡高等裁判所 昭和53年(ラ)58号 決定

抗告人 古川源造 外一名

主文

一  抗告人古川源造の抗告を棄却する。

二  抗告人田代キクノの抗告を却下する。

三  抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

本件各抗告の理由は、これを要するに、抗告人古川源造において、原審判にはその前提となるべき事実認定において、数多くの誤認があるのみならず、本件遺産に対する抗告人源造及び同キクノの寄与分等を決定するについては、抗告人源造が相手方及びその夫であつた被相続人忠一に対して与えた生活上の援助、扶助の数々はもちろん、抗告人キクノが父である被相続人源次郎及び母であるマサに孝養を尽し、遺産の維持、管理に貢献した功績を評価して斟酌しなければならないに拘らず、これがなされてない点において、極めて不当な審判であり承服できない、というにあり、抗告人田代キクノにおいて、原審判別紙遺産目録2の宅地は、父源次郎の遺産であるから、これを血族でない相手方に分割取得せしめる趣旨の原審判には到底承服しがたい。右の宅地は同抗告人に取得せしめるよう原審判を変更されたい、というにある。

一  抗告人古川源造の抗告について

当裁判所も、本件遺産分割は、原審判と同一内容の分割が相当であると、認定、判断するが、その理由は原審判理由と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原審判二枚目表五行目の「源次郎」を「忠一」に、同枚目裏一〇行目の「番号5・6」を「番号5・7」に、三枚目表九行目の「長男定雄」を「長男貞雄」に、四枚目裏一〇行目の「寄与分」を「寄与分を」に、五枚目表三行目の「未成を」を「未成と」にそれぞれ改め、同九行目の「その遺産を増加させたもの」の次に「或はその維持管理に当り通常の程度以上の貢献があつたもの」を、同一二行目の「苦労して建てた」の次に「のみならず、その建築費用の一部については後日自ら給料をもつて支払つた」を、同一四行目の「番号2」の次に「の土地」を、同枚目裏九行目の「寄与分」の前に「通常程度以上の維持貢献があつたものとも認めがたく、その他」を、同六枚目裏末行目の次にカッコ書として、「なお、抗告人源造は、本件遺産に対する抗告人らの寄与分等を決定するに当り、抗告人源造が相手方及びその夫である被相続人忠一に対して与えた過去の援助、協力の数々はもとより、抗告人キクノが父である被相続人源次郎及び母であるマサに尽した孝養の数々が斟酌されなければならない旨強調するが、記録に徴すれば、同抗告人主張の右の事情が遺産分割上寄与分として特別の配慮を与えるべき程度の事情とはなお認めがたいこと前示のとおりであつて、当裁判所の採用しないところである」を、それぞれ加える)。

その他一件記録を精査するも、原審判にはこれを取消すべきなんらの瑕疵も認めることができない。

よつて同抗告人の本件抗告は理由がないから、これを棄却すべきである。

二  抗告人田代キクノの抗告について

同抗告人の本件抗告は、相抗告人古川源造の抗告申立後に申立てられていることは記録上明らかであるところ(抗告申立日は、前者が昭和五三年四月二四日、後者が同月二〇日)、遺産分割の如き非訟的な裁判の不服申立については、裁判所は当事者の挙示する不服申立の理由と限度になんら拘束されることなく事件全般について審理判断をなしうるものであるから、既に当事者の一方又は複数の一方当事者の一部から適法な抗告があつた以上、その後における当事者の他方又は一方当事者の残部からの抗告は二重抗告となり、民訴法三七八条、二三一条に照し不適法といわなければならず、従つて、抗告人田代キクノの抗告は却下を免れない(尤も、前の抗告の審理に当つては、後の抗告の抗告理由も当然審理判断の対象となるものである。なお、同抗告人の抗告は、それ自体二週間の抗告期間経過後の抗告であり、その点からも不適法な抗告といわなければならない)。

三  よつて抗告費用の負担につき、民訴法八九条、九五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高石博良 裁判官 鍋山健 原田和徳)

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